伝統を受け継ぎながらも独自スタイルで跡継ぎ目指す

LINEで送る
Share on LinkedIn
Pocket

黒崎 敏雄(くろさき・としお)/指物師

profile

栃木県宇都宮市出身。クロサキ工芸の3代目候補として、幼い頃から自宅に併設された工房に出入りし、父や職人の仕事ぶりを見て育つ。専門学校で建築・家具デザインを学び、20歳で家業に。父親であり代表の啓弘氏を師と仰ぎ、栃木県伝統工芸士になるべく日々修行に励んでいる。

▼手作り家具工房 クロサキ工芸
http://zatuboc.sakura.ne.jp/


image01栃木県の伝統工芸士である親父が職人をしている工房が、自宅と併設している環境で生まれ育ったので、幼い頃から工房は遊び場でした。だから、親父や職人さんの仕事ぶりはよく見ていました。

そんな環境だったので、木工が好きになるのは自然な流れでした。また、親父が工房の代表を務めていますから、自分は「跡継ぎになるんだ!」という自覚も、物心つく前から漠然とですが持っていました。

しかし、子どもの頃と今では、取り巻く環境がだいぶ変わってきていると感じています。
親父の元で修行する職人は、かつては10人くらいいたのですが、不景気も重なって姿を消していきました。職人を抱えながら製品を作り続けた親父は、だいぶ苦労をしたと思います。生活を支えながら、一人の人間を育て上げるのは、並大抵のことじゃないです。

image02

職人として、私がまず始めに教わったことは、道具の”仕込み”です。カンナやノミといった刃物であれば、刃の研ぎ方はもちろん、鉋刃(かんなば)と裏刃を調整して木の逆目を止める役目(木の表面をきれいに仕上げる)の調整がとても重要です。

台の調整では、単に台が平なだけではうまく削れません。台を削り、少し空間を作ってやることで、初めてきれいな削り屑が出るようになります。隙間具合を調整する道具も自分で作りますし、その道具を整える別の工具なども、職人一人ひとりが自分の使いやすいように調整していきます。
そのため基本的な技術は教わりますが、あとは自分なりに勉強し、独自のスタイルを作っていくことが求められる職業です。

ちなみに私が使うカンナやノミの数は50以上。有名な鍛冶屋さんが作った刃物や金物だと、1つ数万円する逸品もあります。
もちろん、良い道具は欲しいですけど、そういった逸品は高価過ぎてなかなか手がでませんね。

 

 

職人歴20年でもまだまだ下っ端・・・高い技術の習得目指す

image03

以前は木工仕事であれば幅広く手掛けていました。ただ、そのような仕事は減ってきています。今は、祖父の代から培った栃木県の伝統工芸品である「指物」(※)を専門に、ものづくりに特化しています。

なかでも、うちの工房の特長は、「木彩(もくさい)」という技法を使っていることです。木彩とは寄木細工の一種で、色も質感もさまざまな種類の木を細かく切り貼りしていき、その独特の風合いと見た目のインパクトを楽しみます。
寄せ合わせる木もそれぞれ違いますから、同じように作ってもまったく同じ模様は二度とできません。作る度に違う表情になるので、作り手としても非常におもしろいし、やりがいを感じます。もっといろいろな組み合わせを試したい!と思います 。

 

 

奥深い「指物」と「木彩」の世界を知ってほしい!

「指物」も「木彩」もかなり高度な伝統技法なのですが、今では知らない人が多いのが現状かと思います。私をサポートしてくれる方々には、奥深い「指物」や「木彩」の世界についてもっと知ってほしい。インターネットを通して、私も皆さんに、伝統技法を伝えていきたいと思っています。私ももっともっと高い技術を習得できるよう、皆さんからの応援をいただけたら嬉しいです。
職人になって実はもう20年が経ちますが、私はまだまだ下っ端の部類になります。この業界は、一人前になるまでに根気のいる年数がかかります。
テーブルづくりのように時間のかかる製品では、私の任される担当は天板を切ったりカンナで仕上げたりといった工程です。角の仕上げ一つをとっても、カンナで仕上げるかペーパーで仕上げるかによって、その後の塗装の”のり”や仕上がりがガラリと変わってきます。

当然、ウチではカンナ仕上げにこだわるわけですが、カンナで面を取ろうとすると、面の幅を均一にするのが難しい、という問題にぶつかります。面は天板の部分はもちろんですが、地面につく脚の裏の部分にもかけます。
このように目につかない箇所でも、手を抜かずにきちんと仕事をする。当たり前のことですが、これは親父や先輩から教わった大切なこと。

近い将来、複雑な椅子やテーブルなどを一から自分の手で作ってみたいです。伝統工芸士という資格は、基本に忠実に一生懸命にやった先の夢。3代目として、栃木県の伝統工芸である「指物」を継承する者として、1年後にはこれまで手掛けたことのないものを世に出したいです。